『ガゴッ!!』
鈍い衝撃が走り、ヒロシはハッと我に帰り、慌てて急ブレーキを踏んだ。
一昨日から続いた仕事に区切りをつけて、ようやく家に帰れる事になり、帰路についたヒロシは、疲れた体と、重いまぶたをなんとか持ち上げ、車を運転していたのを思い出す。
『そうだ、自分は運転していたはずだった・・・』
そう思って反射的に視線を前へと向けると、ヘッドライトが映し出したのは、倒れた男性の姿だった・・・。
事態を全く飲み込めない反面、無意識に嫌な汗が額を湿らせている自分に気がつく。
『ひ、人を引いてしまったのか・・・』
その言葉を自分に言い聞かせるのに、どれ位の時間を費やしたのかは定かではないが、気がつけば彼の手はガタガタと震えていた。
しかし彼は良心的な人間である、ドアを開け、恐る恐る倒れ込んでいるその人に近づく。幸いスピードは出ていなかったらしく、彼が生きている事だけはわかった。
『最悪の事態は免れた・・・でもどうすればいいんだ・・・とにかく救急車だ』
そう思って急いで救急車を呼び、続けて警察へと電話を入れた。
やがて救急車が到着し、けたたましいサイレンの音が遠ざかって行くのを見送ると、彼はようやく冷静さを取り戻した。辺りには数人の警察官とパトカー、それを見守る野次馬達がいつの間にか押し寄せていた。
そこに居る人々は、まるで自分に見せ物でも見る様な目を向け、それら群衆や、警察官が彼の敵であることは明らかだった。
彼は酷く不安になっていた。
警察に電話を入れた後、急いで加入している保険会社に電話を入れたが、時刻が遅かったため「時間外なので」と来てはくれなかった・・・。そこに彼の味方は誰一人居なかったのだ。
『この後、自分はどうなるんだろう・・・』
そんな事を考えていると、彼を見る群衆の中から、一人の中年の男性がゆっくりと彼の元に近づいてきた。見るからに良いスーツを着たその男は、おもむろに名刺を取り出し。お困りですか?とヒロシに名刺を渡し、高級感のある笑顔を少しだけ見せた。
名刺には『示談代行・交渉』と記されている。
『私に任せて下さい』
今度はしっかりとした口調でその人物はそう言った。
ヒロシは、反射的に『お願いします』と答えた・・・。
ってことで今晩は、ナツメグです。物語調で初めてみた今夜の裏バイト情報ですが、今日の主人公はヒロシではなく、この人!
そう、示談屋の裏バイト!!!
さて、ご存知の方もいるかもしれませんが、この示談屋の裏バイト、仕事内容は、交通事故の際の示談の仲介だ。
ちなみにこの仕事は、弁護士法72条は次のように規定されている。
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
・・・要するに弁護士資格を持たない者が報酬をえる目的で事件に関与しちゃ行けないって法律で、これに違反すると2年以下の懲役または300万円以下の罰金。つまり犯罪行為なんだね。
にもかかわらず、示談屋が今も存在している訳で。その背景には、保険会社の手抜きがあるんだ。
というのも、保険会社は、保険に加入させるのに一生懸命だけど、事故が起こってもほとんど知らんぷり、最初に上げたみたいに「時間外なんで」って理由で現場に来てくれない事も。
保管会社が損をする事故なら、一生懸命調査して、支払いを押さえようとするんだけど、保険会社に損が無い事故(自賠責で済む範囲)はすっごい適当な訳。
そして、示談ってのは、法律の知識がなきゃできないもの・・・にもかかわらず、味方のはずの保険会社がそんな調子だとしたら・・・そんな理由があって示談屋が存在する訳ですよ。
さて、そんな示談屋ですが、一体どうやってお客さんをみつけるのか・・そうそう都合良く自分の目の前で事故なんかおこりません。
実は彼ら、道路懇談無線を傍受して、事故情報をゲットしているんだ、カッコいいー!
レッカー会社なんかも似た様な事をしているんだけど、とにかくスピードが命の裏仕事、動揺した運転手をいかに早く捕まえるかが勝負な訳ね。
はいと言う感じでさ、示談屋と聞くと犯罪行為で不当な報酬を要求したり、恐喝して捕まったなんて話も過去にあってイメージが凄く悪いけど。その影には、保険会社の手抜きがあったり、事故の動揺と知識の無さに原因があって、一概に何が悪いかわからなくなる、そんな裏バイトのお話でした。
って感じで今日はおしまい。
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