さて、いささか話を長く引き延ばしすぎたせいで後編に突入してしまった訳だが、いよいよ本題に入りたいと思う。
前回記した様に、中学生の僕は
マジック・ザ・ギャザリング
と呼ばれるゲームと出会った。それは当時の僕に高尚で知的で先進的な印象を与え、瞬く間に僕をオタクの世界へと誘い込み、やがて僕は経済的な理由から裏バイトを始める。
僕がこのカードを使って行った裏バイト・・・それは「
せどりの裏バイト」であった。
とはいえ、当時の僕は「せどり」という単語を知らない。
それは結果的に
せどりの裏バイトであっただけで、当時の僕にはそんな意識は蟻のまつ毛ほども無かった。
さてそれでは、具体的な経緯を綴って行こう。
当時のインターネットと言えば、今ほどは浸透していなかったにせよ、ことエロサイトを見る場合においては究極のポテンシャルを秘めていた、そしてもちろん始めは、単なる知的好奇心からであった。というのも、
マジックザギャザリング関連の見た目のオタク感丸出し表紙の雑誌
を買い求め、隅から隅まで読み尽くした当時の僕にとって、知的探求を行うべき場所はもはやインターネット上にしか残されておらず。
マジック・ザ・ギャザリング
について調べ始めたのがきっかけで、ある掲示板に辿り着き、そこで個人間のカードの売買が行われている様を目撃する事となる。
漫画
MOONLIGHT MILE
の中で、人間が代価エネルギーを求めて月へと進出する様に。僕がインターネットという新たな世界へと足を伸ばした事は、自然だか不自然だかわからない矛盾を内包していた。
だが、その倫理的な解釈は抜きにして考えれば。今までお店でしかカードを売買は出来ないと思っていた僕にとっては、インターネット上の世界は革新的な場所であった。
そこでは多くの人間が個人的なカードの売買を行っていて、しかもその価値観もバラツキが有り、僕の知る適正価格とは随分違っている部分もあったのだ。
だから僕も、それらの先駆者に習って欲しいカードを安く売っている人の元へと書き込みをしてみた。
『カード買います』と。
するとネット上での売買は驚く程簡単に成立し、僅かばかりの値段で僕が欲しかったカードはあっさりと手に入る事になる。
それは僕にとって近未来の幕開けであり、新エネルギーのフロンティアであり。黒船に乗ってザビエルだかペリーだかしらないけど、なんか禿げ散らかした外人がやってきたゾと言う様なニュースよりよっぽど衝撃的な事件だった。
そして、ここから僕は本格的にせどりの裏バイトを始める。
といっても、僕が始めたのはカードを安く仕入れて高く売る・・・ただそれだけである。気がつけば一年以上カードのことばかりを考えて暮らしていた僕に取って、そのカードの適正価格など、まるでかけ算の九九を暗唱する様に容易な作業だった・・・。
それはまさしくオタクの自己満足と優越感の結晶であり。ぼくはその澄み切った知識をお金へ変える事にしたのだ。
まず僕は自分の持っているカードをリストにまとめ、適正価格より少しだけ高く設定して売り始めた。
そしてそれらは驚く事に随分と売れた。
すると今度は、自分の持っているカードの在庫が不安になる。当然僕自身も、コレクターとして絶対に手放せないカードは沢山有り、それらを手に入れる為にもカードを集める事が必要だった。
だから今度は掲示板を徘徊し、需要の有りそうなカードを、しかも買い値より高く売れそうなカードを片っ端から買いあさり、それを別の掲示板で片っ端から売り払った。
昼間は学校で勉学に励み、夕方からオタク仲間とカードゲームをし、夜はネットでカードを売買する・・・(現金の振込を確認してカードを送る、もしくはその逆)。そんな毎日は典型的なオタクライフに他ならず、そこには何か異様なエネルギーが存在し、それは僕をひたすら暗部へと突き動かす原動力となったのだ。
気がつけばそこには、そのネット上の売買に置いて月に5万くらい稼いでいる自分が居た。
5万である。。ろくなバイトもできない中学生に取っての5万円は非常に高価であり。さらに欲しいカードはみるみると僕の手元に揃って行く訳で。同じ時期にカードゲームを始めたポロリ等のオタク仲間の中でも、僕のデッキはそのパワーバランスを歪めてしまう程の力を持つ事となる。
結婚にしかり恋愛にしかり、物事の破綻はパワーバランスの破綻だと置き換える事が出来るのかもしれない。もともと僕よりもオタク的側面を欠いた仲間達は、いよいよ僕に白い目を向け始め、僕は僕で、その潤沢な資金とインターネットを利用する事でますます強大な力を得る事となる。
やがて仲間内で僕は負け無しの強さを誇り、始めた頃の純粋なゲームとしての楽しさは完全に失われてしまう。
そこには世の縮図があり、それが彼等にとって面白くない事だということを理解するには、僕はいくぶん若すぎたのだ・・・。
高校に上がる頃には僕達は以前程カードゲームをしなくなり、高校に上がり各々の世界が構築され始めると、それは完全にストップし荒廃して行った。
僕も高校では恋だ部活だと真剣そのものであり、興味は主に女性へとシフトして行くため、いつの間にかあの異様とも言えるマジック熱も冷め。気がつけばそれまで必死で集めた僕のカードコレクション(30万円相当)は押し入れの中へと追いやられてしまった。
こうして奇妙な一点のシミの様な物を残し、マジックザギャザリングは僕の前から完全に姿を消した。
それは、みすぼらしいサナギから一匹の毒蛾が飛び立つ様に、僕のその後の人生を怪しく彩るために必要な期間だったのかもしれないのだが、それでも終わりは余りに唐突であり、僕には若干の名残や戸惑いもあった。
だが世界は終わり、新しい世界が始まる。
この体験は僕の中の柔らかな核となる部分に働きかけ、その骨格を歪んだ形へと変化させてしまったのかもしれない。
もちろん、今思えばの話だが・・・。
過去を振り返ることは、僕はあまり好きじゃないんだけど、こうやって振り返ってみて、あの頃の自分の中にあった正体不明の膨大なエネルギーが一体何だったのか、あるいは、当時の僕は何を思ってあんな事してたのか、そんな霧がかったモノの正体を見極めるのに、なかなか有意義な作業だったと素直に今日は思いました。